ベジタブル

 弁当の中身は予想以上の豪華な料理で、それも大量に詰め込まれていた。その料理の数々に、アランは言葉を失ってしまう。これであの値段。信じられなかった。寧ろ羨ましく思い、アランは弁当を凝視してしまう。無論、傍から見ればそれは異様な光景に映っていた。

「ところで、こいつ誰だ?」

「皆と同じ。同業者だよ」

「はあ、なるほど」

「じゃあ、お前もそうか」

「貰うといいよ」

 ジークの説明に一同は納得の表情を浮かべると、彼等は自分達と同じようにジークに弁当を頼むように勧めてくる。彼等曰く、一ヶ月の弁当料金を渡せば弁当を手渡してくれるという。そしてこの弁当のお陰でかなり食生活が変わったというが、相変わらず血色は悪い。

 しかし彼に格安で弁当を提供して貰っていなければ、何人ものトレジャーハンターと冒険家が行倒れ、病院に搬送されている。そして最悪の場合、命を落としている。それらを総合して考えれば、ジークは命の恩人。だからこそ、彼等は多少の無理は聞くようにしている。

「俺もいいのか?」

「金を払ってくれるのなら」

「も、勿論」

「なら、三日後から提供する。明日からでもいいけど、材料の関係があるからね。好き嫌いあるかな?」

「いや、何でも食べる」

「これに、サインして」

 アランの目の前に差し出されたのは、古びた一冊の手帳。その手帳を開いた瞬間、複数の名前が視界の中に飛び込んでくる。その人数はざっと数えて十五人以上。その数の多さに驚くしかないが、同時にジークに対して周囲がどのように思っているのか判明する人数でもあった。

「こんなに、いるんだ」

「勝手に噂を広めていく」

「あっ! さっきのか」

「そう、こいつ等の所為で」

 ジークの言葉に、弁当を受け取った者達は横を向いてしまう。このように格安で美味しい弁当を提供してくれる心優しい人物は他には存在しないので、仲間内で噂が一気に広まった。それによって店の名前が有名になったのは、有難い。それに、繋がりは広い方がいい。
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