*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語
「実は、そうなんだ。


怪我をして動けなくなっているところを見つけて、近くの洞窟まで連れてきて手当をしていたんだよ」






「なるほどなぁ………」







疾風は顎を撫でながら何度も頷いた。





沙霧は視線を移して玉梓を眺め、溜め息を洩らす。







「玉梓は気づいていたのか、心配をかけて悪かったなぁ。



それにしても、疾風は良い妻をもらったものだな」







にこりと笑って言われて、疾風は沙霧の肩を軽く叩いた。








「確かに玉梓はいい女だ。


たとえお前にでも、やらんぞ」








軽口めかして疾風が言うと、沙霧はふるふると首を振った。







「そんな、滅相もない!


疾風の妻を横恋慕するはずなど、ないだろう!」








その慌てぶりに、疾風は思わず吹き出す。







「ははは、冗談だよ、冗談!


相変わらず生真面目だなぁ、沙霧は………」







「………からかうのはよしてくれ。


わたしはどうにも冗談が通じなくて、自分でも困っているんだ」







「すまん、すまん」







疾風は可笑しそう口許を押さえた。










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