*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語
「それで、朝日、あなたは、五の宮さまの御居場所がなくなっていくようで、そのことが寂しいということなのね?」






母が確かめるように言うと、朝日宮は小さく頷いてから、今度は横に首を振った。







「いえ………もちろんそれもありますが、それだけではないのです」






「あら………どういうこと?」







母に問われて、朝日宮は長い睫毛を微かに震わせ、消え入りそうな声で答える。







「―――――畏れ多いことに、僕を春宮に、と推してみえる公卿がおられるそうなのです」





「まぁ………」







明子は思わず驚きの声を上げ、口許を袖で覆い隠した。







「あなたを、春宮に?


そんなこと、今まで表立って口に出す方などいらっしゃらなかったのに………。



お家柄をとっても、ご教養をとっても、五の宮さまに次ぐ春宮候補といえばやはり、七の宮さま―――奥津宮さまと考えるのが当然のことでしょうに」






「えぇ、お母さまのおっしゃる通りです」







朝日宮は真っ直ぐに射るような強い視線で、しかし眉をひそめつつ、母を見つめ返す。








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