*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語
「今までは、春宮には、沙霧お兄さまか奥津お兄さま、と考えられておりました。



それなのに、沙霧お兄さまがお姿を消されてから、どういう理由か分かりませんが、公卿たちの間で、僕の名が挙がりはじめたというのです」








突然舞い込んできた後継話に、明子は動揺を隠せなかった。






(いくら後宮にいるとはいえ、おそらく最後の妃である私と末の皇子である朝日は、世継ぎ争いなど無縁のところにいると思っていたのに………)






悩ましげな表情で俯いて、膝の上で拳を握りしめている朝日宮をじっと見つめる。






(………朝日と二人で、静かに穏やかに、変わりばえしなくとも幸せな毎日を送ることができれば、それで良い。


ずっとそう考えていた。



―――でも、そんな安穏とした人生を送るには、この子はあまりにも、利発で聡明に育ってしまったのだわ………)







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