*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語
「朝日宮さまにおかれましては、もうお聞きになられましたでしょうか」




「………なんのことでしょうか」





兼正の焦らすような言い方に不安を覚えつつも、朝日宮は素直に訊き返した。





すると奥津宮が苛立たしげに小さく舌打ちをしたので、朝日宮は思わず目を丸くする。



驚いて動きを止めた朝日宮にたたみかけるように、兼正がさらに言う。







「おとぼけになる必要はございませんよ。


すでにお耳には入っておられるでしょう………日嗣の御子のことでございますよ」






「あ………」






朝日宮は思わず声を上げ、ちらりと奥津宮の顔色を窺った。




兄皇子の顔は無表情だったが、瞳の奥に冷たく燃え上がる炎は、隠しようがない。





朝日宮は背筋に冷水でも流れたような気持ちがした。







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