*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語
奥津宮ははっとしたように言葉を呑み込み、慌てて扇を開いて口許を隠した。





しかし朝日宮は、奥津宮の言葉をしかと聞き届けていた。




目を瞠り、動悸の高まる胸をぐっと手で押さえる。






「………奥津お兄さま。


今のお言葉は、いったいどういう………」





「……………」






奥津宮はだんまりを決め込むことにしたようだった。





朝日宮は胸の奥に、澱のように沈殿していく何かを感じながら、薄く開いた唇を何度か動かした後、絞り出すように言った。







「…………お兄さま。


僕は、畏れ多くも日嗣の春宮になろうなどとは、髪の筋ほどにも考えたことはございません。


僕の上には、奥津お兄さまを始めとして、素晴らしい兄上たちが大勢いらっしゃるのですから………。



末の皇子である僕は、元服いたしましたら臣籍に下り、臣下の一人として主上にお仕えするものと、幼い頃より心得ておりました」







「…………ふん」






奥津宮は鼻を鳴らし、何も言わずに歩き出し、朝日宮の横を通り過ぎた。





兼正も一礼し、後を追った。






< 230 / 400 >

この作品をシェア

pagetop