*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語
奥津宮ははっとしたように言葉を呑み込み、慌てて扇を開いて口許を隠した。
しかし朝日宮は、奥津宮の言葉をしかと聞き届けていた。
目を瞠り、動悸の高まる胸をぐっと手で押さえる。
「………奥津お兄さま。
今のお言葉は、いったいどういう………」
「……………」
奥津宮はだんまりを決め込むことにしたようだった。
朝日宮は胸の奥に、澱のように沈殿していく何かを感じながら、薄く開いた唇を何度か動かした後、絞り出すように言った。
「…………お兄さま。
僕は、畏れ多くも日嗣の春宮になろうなどとは、髪の筋ほどにも考えたことはございません。
僕の上には、奥津お兄さまを始めとして、素晴らしい兄上たちが大勢いらっしゃるのですから………。
末の皇子である僕は、元服いたしましたら臣籍に下り、臣下の一人として主上にお仕えするものと、幼い頃より心得ておりました」
「…………ふん」
奥津宮は鼻を鳴らし、何も言わずに歩き出し、朝日宮の横を通り過ぎた。
兼正も一礼し、後を追った。
しかし朝日宮は、奥津宮の言葉をしかと聞き届けていた。
目を瞠り、動悸の高まる胸をぐっと手で押さえる。
「………奥津お兄さま。
今のお言葉は、いったいどういう………」
「……………」
奥津宮はだんまりを決め込むことにしたようだった。
朝日宮は胸の奥に、澱のように沈殿していく何かを感じながら、薄く開いた唇を何度か動かした後、絞り出すように言った。
「…………お兄さま。
僕は、畏れ多くも日嗣の春宮になろうなどとは、髪の筋ほどにも考えたことはございません。
僕の上には、奥津お兄さまを始めとして、素晴らしい兄上たちが大勢いらっしゃるのですから………。
末の皇子である僕は、元服いたしましたら臣籍に下り、臣下の一人として主上にお仕えするものと、幼い頃より心得ておりました」
「…………ふん」
奥津宮は鼻を鳴らし、何も言わずに歩き出し、朝日宮の横を通り過ぎた。
兼正も一礼し、後を追った。