*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語
可愛らしい子狐の姿に、沙霧は思わず顔が綻びそうになったが、泡雪の次の言葉で、一気に冷水を浴びせかけられたような気持ちになった。







「――――そこに、突然、猟師が現れた。


母親と私の姿を見た途端に、男は青ざめた顔で、『白狐だ、妖狐だ』と叫んだ。


そして、叫びながら矢をつがえて、私に向けて弓を引き絞った」







冷たく光る鏃(やじり)を向けられた、小さな白い子狐。



ぞっと背筋が凍るような気がした。





泡雪の言葉は抑揚もなく、あくまでも平淡だったが、その奥底に暗い感情が隠れていないはずはない、と沙霧は眉根を寄せる。







「………母親は、どの妖狐にも負けないくらい、強く鋭い力を持っていたと聞く。



でも―――私を産んだ後、母親の妖力は、ほとんど消えてしまうくらいに弱くなったそうだ。


それは、女の妖狐にはよくあることらしく、時間が経てば少しずつ元に戻るのだという。



だけど、そのときの母親は、生まれたばかりの妖狐と変わらないくらいの力しか持っていなかった」









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