*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語
顔色も変えずに語りつづける泡雪の華奢な手を、沙霧はしっかりと包み込む。





それに気がついた泡雪は、わずかに口角を上げ、頬を緩めた。








「………母親は、きっと、咄嗟に、妖力では私を守れないと考えたんだろう。


標的にされた私の前に、矢よりも早く跳び出してきた母親の後ろ姿だけは、はっきりと灼きついている。


ほっそりとしていたけど、すごく力強い背中だと思った。



私は母親の陰で、母親の身体に矢がのめり込む音を聞いた気がする。


小柄な母親の身体は、矢を受けた勢いで後ろに跳ねとんで、私はその下敷きになった。



命を奪うほどの深手だということは、一目見て明らかだった。


でも、猟師は、怯えたような顔で、次の矢をつがえた」







温もりを失っていく身体の下で、小さな泡雪の琥珀の瞳は、情け容赦なく向かってくる鏃をとらえたのだろう。






沙霧は、胸を締めつけるような、やりきれない切なさと苦しみを感じた。







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