*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語
「母親が死んだ時のことは、それくらいしか覚えていない。
父親は知らないし、兄弟もいない。
他の妖狐たちに面倒を見てもらいながら、私は一人で暮らしていた」
「うん………」
以前、泡雪の話を聞いたとき、ひどく胸がいたんだのを、沙霧は思い出した。
家族もなく、たった一人の力だけで、この雪山で生き抜いてきたのか、と。
しかし、今の話を聞いて、少しだけ嬉しくなった。
泡雪をとりまく妖狐の世界では、親と死別した子狐を、皆が協力しながら見守っていたのだ。
それは、人間の世と変わらないーーーいや、もしかしたら、人間よりも情が深いのかもしれなかった。
沙霧の育った宮中では、母親を失った子は、後ろ盾を無くし、それこそ、いつ足下を掬われるかも分からないような、頼りない心地で生きるほかなかったのだ。
父親は知らないし、兄弟もいない。
他の妖狐たちに面倒を見てもらいながら、私は一人で暮らしていた」
「うん………」
以前、泡雪の話を聞いたとき、ひどく胸がいたんだのを、沙霧は思い出した。
家族もなく、たった一人の力だけで、この雪山で生き抜いてきたのか、と。
しかし、今の話を聞いて、少しだけ嬉しくなった。
泡雪をとりまく妖狐の世界では、親と死別した子狐を、皆が協力しながら見守っていたのだ。
それは、人間の世と変わらないーーーいや、もしかしたら、人間よりも情が深いのかもしれなかった。
沙霧の育った宮中では、母親を失った子は、後ろ盾を無くし、それこそ、いつ足下を掬われるかも分からないような、頼りない心地で生きるほかなかったのだ。