*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語








「―――殿。ご報告申し上げたいことが……」







脇息にゆったりと身体をもたれさせ、杯をあおっていた兼正は、腹心の従者の声に目を上げた。







「どうした」





「―――白縫山の麓に住む猟師から仕入れた情報で……」







傍らに膝をつき、扇で隠した耳許に囁きかける男の言葉を聞いて、兼正はくくっと低い笑みを洩らした。







「―――それは、確かなのか」






「はい……複数の民から同様の話が聞かれましたので、かなり信憑性が高いのではないかと」






「ふふん……やっと、だな。ずいぶん待たされたが………」






「は………申し訳もございません」






「よい。此度の成果次第では、不問にしてやろう」






「ははっ、ありがたきお言葉!」







男は頭を下げ、素早い身のこなしで壁代の隙間へと身を隠した。







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