*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語
二人は、黙り込んだまま見つめあった。





黙っていると、沙霧はふいに咽喉の渇きを感じ、視線を巡らせた。






しかし、板屋の中には水甕(みずがめ)どころか、人の暮らしている形跡は何一つ見当たらなかった。






(………仕方ない。


雪で渇きを癒やすしかないな)






沙霧は立ち上がり、再び木戸を開けた。





汚れのなさそうな雪を手に取ろうと考え、板屋の周りを見回し、あることに気づく。






(…………足跡が、ない)






板屋の周りには、歩いた形跡が一つもなかった。






(………どうやって、ここに来たのだろうか)






首を捻って考えるが、沙霧自身は意識を失っていたのだから、分かるはずもない。






(………まぁ、いいか)







沙霧は手のひらに雪を掬い、口に運んだ。





ひんやりとした冷たさが、しっとりと咽喉を潤した。






少女のほうを振り返り、訊ねる。






「君は、咽喉は渇いていないか?



水はないようだから、雪を食べるしかないと思うが」






「…………渇いているが、起きられない」






ぐったりと壁にもたれたまま、身じろぎもせずに少女は答えた。








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