*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語
「………どうだ、渇きは潤ったか」




「…………」




「まだ足りないか」




「………もういらぬ」





少女はまたも迷惑そうに顔をしかめて言った。




沙霧はにっこりと少女に笑いかけた。





「………助けてくれて、ありがとう。


君は、自分を犠牲にしてまで、わたしを救ってくれたのだな。


地獄に仏とはこのことだな」





「…………」





少女は相変わらず返事もしなかったが、だいぶん慣れてきて、沙霧はにこにこと続ける。





「わたしは沙霧というのだ。君は?」




「……………」




「君の名を、教えてくれないか」




「…………ない」




「…………え?」





沙霧は目を丸くした。



意味が分からなかったのだ。





「………何が、ないのだ?」




「………名が、ない」




「…………なぜ」




「………知らぬ。いらないからだろう」








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