*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語
沙霧はぽかんとした表情で少女を見つめる。





「…………名が、いらないだと?


それでは、君の家族や友人は、君をどうやって呼ぶのだ」





「…………そんなものはいないし、いたとしても、名を呼ぶ必要はない」





「……………」






少女は表情を変えなったが、沙霧は苦しげに顔を歪めた。






「…………なんということだ!


名がないだと?


そんなのは、困る!」






「…………は?」






「わたしは君を、なんと呼べばいいのだ!?」






「……………」






今にも泣き出しそうな沙霧の顔を、少女は訝しげに見つめた。






「…………あぁ、困った、困った。



どうすればいいのだ、君の名を呼べないなんて………」






沙霧は悲しそうに頭を抱えた。




少女は物も言わずにその様子を凝視する。





しばらく俯いてうんうん呻いていた沙霧は、唐突にばっと顔を上げた。







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