*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語
「こらーっ、待て、灯!!」




追いかける群雲を大きく引き離して、灯は風のような速さで林の中を駆け抜ける。




群雲はまともに走っても追いつかないことを知り、先回りをすることにした。





「………つかまえ……あっ!」





捕らえようとしたところで、灯は一瞬身を深く沈め、地面を強く蹴って、宙に跳び上がった。




そして、背の高い樹の天辺に近い枝に飛び乗る。




群雲の目の前には、紅い残像だけが残っていた。




群雲は樹の下で「ずるいぞーっ!」と喚く。




灯は構わず、幹に手を当てて遥か遠くを眺めていた。





その姿は、まるで人ならざる者のように見えた。





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