もしも君と恋ができたら
もしも君と恋ができたら
桜のつぼみが膨らみ始めた季節。
陽射しは暖かいけれど風はまだ少し冷たい。
「ふう……」
ダンボールに荷物を詰める作業を一旦中止して、外の空気を吸おうと窓を開けた。
穏やかな風が部屋の中に入り込んできて、わたしの髪をさらりと靡かせる。
階段の下からあかりー、という声がして、すぐにお母さんが二階に上がってきた。
「どう? 調子は」
そう言いながら、持ってきたウーロン茶を机の上に置いてくれた。
「まあまあ。思ったより持っていきたいものが多くてさぁ」
わたしは肩を竦めて散らかった部屋の中を見回した。
春から社会人。
家を出て、憧れだった一人暮らしを始める。
少しずつ向こうに運んではいるけどまだまだ。
残りの荷物を週末までにやっつけてしまいたくて、朝からずっと荷物を整理している。
「さみしくなるわねぇ。あかりがいなくなると」
お母さんがため息をつく。
「大丈夫だって。慶介もいるじゃん」
「あの子はあかりみたいに、私の話を聞いてくれないもの」
慶介はわたしの弟だ。
高校生の彼は最近夜まで遊びまわることが多くなって、小さい頃より口数もぐっと減った。
小さいときのように話してくれないのは、わたしも寂しく感じている。
お母さんは口を尖らせていたが、あ、と言ってわたしを見た。
「明日、しょうくんが引っ越しの手伝いに来てくれるって」
「えっ……」
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