食べてしまいたい
「……喧嘩した」
そらみろ。そんなの俺からすれば、ただの惚気だぞ。
ったく、人の気も知らねぇで。
「ふーん」
「なにその態度」
「そういうのは犬も食わねぇって言うんだよ」
ちょっと、いじわるだった思う。
だけど、俺だって聞きたくない。ずっと好きだった幼馴染の彼氏の話だなんて。
俺の兄貴の話なんて。
家が隣り同士で、小さい頃から頻繁にお互いの家を行き来していた。
2つ上の兄貴、1つ上のこいつ、そして、俺。
よく遊んで、よく喧嘩した。
でも、つい2年ほど前、いつの間にか兄貴とこいつは、いわゆるそういう仲になってて。
俺のいる実家に来ることはずいぶん減り、一人暮らしをしている兄貴のところへ頻繁に行くようになった。
ふと、鼻水をすする音がした。
え?なに?
彼女を見ると、鼻の頭が赤くなっている。目がウサギみたいになっている。
ぎょっ。
やば。ちょっとキツかったかな。
泣くなよ。そんな顏、見せるなよ。
お前、ほんと、人の気も知らねぇで……。