食べてしまいたい
「チョコ、食うか?」
こういう時に気の利いたことが言える男がモテるんだろうな。
我ながら彼女の心に届きそうな台詞がひとつも浮かばないことに苦笑しそうになった。だけど、それは仕方がないと思う。
彼女が兄貴の婚約者でなければ、いくらでも自分の方へぐいと引き寄せ、抱きしめてあげる。髪を撫でてあげる。
たとえ婚約者がいたとしても、彼女を自分のものにするチャンスがあれば、弱っている心につけ込むことだってしただろう。
だけどさ。
それが自分の兄貴となれば話は別だ。
これから生きている限り、義姉弟として付き合わなければならないのだ。
この関係に変な影を落とすわけにはいかない。
彼女の幸せを願うなら、俺は自分の思いにしっかり蓋をし、鍵を何重にもかけ、決して誰にも自分の思いなどは打ち明けず、ただため息をもらすしかない。