猫を追いかけて……。【短編】
久しぶりに来たその場所は
いつ咲いてもおかしくないくらい
その蕾達は膨らんでいた。

思えば桜の木をゆっくりと
見るのはいつぶりだろう。

不意に亡くなった夫との
思い出が甦る。

けれど
それは私の中で
いつしか確かな思い出となり
以前のように
気分が塞ぐこともなかった。

完全なる思い出として
彼は私の中で生きていた。

それは私が少しその場から
歩き出したことの証だと思った。









カシャッーーーー

いつかの様なシャッター音が
その場に響く。

桜の枝に目をやっていた私は
ゆっくりとゆっくりと
目を向ける。

そこにいたのは
やはり猫だった。

いいえ、
確かな目で見た私は
漸く、彼が猫ではないことに気がついた。


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