猫を追いかけて……。【短編】
「ごめん。
綺麗だったからついーーー。」

怪訝そうな顔で振り向いた私に
慌ててそう言ったのは

トラだった。

私が毎日、
家の庭先で煮干しをやる
野良の猫。

厳密に言うとそのトラと
同じ模様をした猫がそこにいた。

トラと同じ猫は長袖シャツに
ラフなパンツと言った
服をそれでもちゃんと着ていて
そして肉球のついたその手で
しっかりとカメラを
抱えていた。

デジタルといった
最新式の物ではなく
かなり旧式の物だった。

「えっと……。
貴方……その……。」

何と言えば良いのか分からない。

「ああ、気になるよね。」

と、彼が言うので
黙ってその先を聞く。

けれど続けられた言葉は
私が待っている物ではなかった。

「これね、俺の祖父から
譲り受けたもの。
年代物のOLYMPUS。
結構、ガタがきてるけど
ちゃんと写るんだ。」

いや、私が気になるのは
カメラではなく
貴方が何故、猫の出で立ちなのかーーー

悪い夢でも見ているのだろうか?
それとも良くできた
特殊メイクなのか?

少し目眩がする。


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