もう陥落寸前
もう駄目かも知れない。
「あんたも変なやつに好かれたわね」
紀子は、ぼんやりと黒板を見つめていた。
広い講義室で隣同士に席を確保し、講義室ではまん中あたりに位置する私たちは、あまり目立たない。
小さなメモ。
溜め息。
今度はにやついた紀子がこちらをちらりと見た。
授業こそ難易度は高くない。むしろ楽な授業であった。なんだってレポートだから。
問題はその前の授業であった。
先生はなかなか面白い講義をするのだか、こう、テストが難しいのである。しかもたびたび投げ掛ける問いは、答えられないような難しいものがしばしば。
しかしそんな講義であてられてもさらっと答えるつわものが、同じクラスにいた。
星野道晴。
名字は女の子っほいくせに、名前はちょっと古風。
なので何故か記憶に残りやすいその男は、前期試験で、今までの学生の中で最高得点をとったつわものなのである。