今夜、君とBloodyKiss
校舎を出て、敷地内の一番端にある少し変わった雰囲気を醸し出す建物。
学生運動の名残か、ただの悪戯か。
壁にはたくさんの落書きがあり、ドラマで見るような荒れた雰囲気を醸し出すこの建物に杏里は戸惑うことなく入っていく。
階段を上がり、2階にあるとある一室のドアを3回ノックすると慣れた手つきで流れるようにドアノブに手を掛ける。
返事を待たずドアノブを回しドアを開けた。
「こんちわー」
「えっ!…あ、ちょ…待っ……」
何も考えずに扉を開くと中には慌てた様子の半裸の男の子。
思わずお互いが黙って見つめ合う中、先に口を開いたのは杏里だった。
「……あ、ごめん。」
「相模さん!とりあえず閉めてくださいっ!!!!」
真っ赤な顔で訴えられたので、そのままUターンでドアを閉め、その場にしゃがみ込む。背中越しに部屋の中で彼が慌てている音が聞こえてくる。
「うーん、どうしたものか」
熱くなった顔をパタパタ仰ぎながら顔を冷やしながら、さっきの光景を思い出す。
濡れた髪に、滴る水。
思い出したあの体に思わず言葉がこぼれてしまう。
「あれはいい筋肉だった」
「…思い出さないでください」
呟いたと同時に背中のドアが空くと、上から声が降ってくる。
見上げれば、真っ赤な顔の彼が見下ろしていた。
「もう、入ってもいい?」
慌てて着替えたのか、シャツのボタンが掛け違っている。
「はい、すみませんでした。」
ドアを支えながら杏里が入れるように少し体をずらすと、杏里はその空いた空間に体を滑り込ませた。
杏里が入ったのを確認し、他に入る人がいないか廊下をチェックすると、彼はそのまま手を離し、ガチャンとドアが音を立てて閉まる。
カランカランと、ドアについていた『料理研究サークル』と書かれた札が誰も居ない廊下に響いた。