今夜、君とBloodyKiss
「えー、それはシャツに対してです?」
苦笑しながら自分でボタンを留めていく紫希から顔を背ける。
突然現れた周りの人影のせいで、先ほどまでの余裕な態度はすっかり消え失せていた。
何よりの原因は。
「相模ー、ここでイチャつくのはなしだぞー」
「い、いちゃついてないですってば!それに、爽佑さんに言われたくない!」
この爽やかすぎる人のせいだ。
「俺のどこがイチャついてるって言うんだ!」
自信満々に胸を張る爽佑の胸元へ視線を移すと、それを追うように爽佑も目線を下げる。
「本当に……はなし……て」
そこに居たのは、爽佑に抱き締められている雪菜が居た。正しくは締め上げられている。
爽佑は全くもって微塵も締め上げるなんて気持ちはないのだろうが、それを彼の力が許さない。
「うわ、すまんすまん」
「雪菜、大丈夫?」
「く…苦しかった……ゲホ」
慌てて雪菜から手をはなすと、支えがなくなりそのままへたり込むと、急に入り込んできた空気に雪菜がむせる。
その背をさすりながら、すまんすまんと謝る爽佑を見る。彼は馬鹿力の持ち主で杏里自身も何度もこの力のお世話になっている。いい意味でも悪い意味でも。
「よし、お詫びに次のサークルで鈴原の好きな料理にするか!」
こうやって、ご機嫌を取ろうと職権乱用するのも何時ものことだ。
「あ、私かき氷食べたい。」
「待って、まだ4月だよ!?」
ポッと呟いた雪菜の言葉に、紫希と話していた唯が勢い良く突っ込む。
「バカは冬眠しててくれませんかね…」
ポツリと呟いた紫希の言葉に目敏く雪菜が突っかかる。
そして皆で笑う。いつもの、杏里が大好きな時間だった。