今夜、君とBloodyKiss

それを知りつつも休みを主張してくる友人、芹沢結斗。杏里は最初の文字で結と呼んでいた。

大学に入ってから一番最初に仲良くなった男の子。桜の季節が終わって、また桜の季節が来た。
周りを見渡せば、そろそろ終わりなのか少しの風で桜の花びらが舞う。
結の後ろで舞う花びらを見つめながら、不意に思い返す。

そう、季節が巡り。
仲良くなってそろそろ一年がたとうとしていた。


この一年付き合ってきて、結の性格というか、心の広さには大いに甘えている。
周りからは良く「付き合ってるの?」と聞かれるが、はっきり言って付き合っていない。
仲良くなった初期は「私、この人と…!」なんて妄想もあったかもしれないが、もうここまでの付き合いだ。男女のどうこう。という次元は超えてしまった。
そして、杏里自身そういった類のことを結に期待もしていない。本当に大切な友達なのだ。


「って、聞いてる?杏里ちゃん。」

「うぇ!?え…あ、うん。聞いてるよ。」


考えにふけっていると、途端に降ってくる結の声に遠くに行っていた思考が突然呼び戻される。


「とか言いながら、また僕の話聞いてなかったでしょ。」


疑いの眼差し。その視線から逃れるようにワザとどもりながら視線をずらす。


「そそそ、そんなことないよ。うん。ちゃんと聞いてたし。」


嘘だ。と隣から聞こえるが、ここはおとなしく無視しておく。
さっきの話は本気で聞いていなかったが、結の声はどこにいても大体降ってくる。
大勢の中から結の声だけ、クリアに聞こえてくるのだ。
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