今夜、君とBloodyKiss
といいつつも、普段通りに喋っていれば他の人と同じ。ただ、大勢の中では際立って聞こえてくるのだ。
それを不思議に思いながら、ちょっと説教じみたことを言う結を横目で盗み見する。
ぱっと見は普通の男の子。むしろ、大人しい部類に入る程。だが、よくよく見れば綺麗な顔立ちをしているが、普段はその面立ちをぶち壊すメガネを装着しているため、結の顔立ちに気づく人は少ない。
「だからね、杏里ちゃん。」
ふと入ってきた結の声だが、聞く必要はないと判断し聞き流すことにした。
いつもの通学路を見つめ、ふと思い出す。
「あ、そういえば来月だっけ?」
突然の言葉に、結はキョトンとした表情を見せた後、落胆したような、呆れたような表情を目で訴えてくる。
「僕の話聞いてた?」
「うん、聞いてたけどつい気になったから。」
しれっと疑いの眼差しを刺してくる結を軽くいなすと、まだ納得していない表情の結の顔を覗き込む。
「来月だよね、結の誕生日。」
「あ、うん。」
不意を突かれたような結の表情にニヤリと口角を上げる。
してやったりといった表情を見せる杏里に、嬉しいがどこか悔しい気持ちになりながら少し赤くなった顔を手で隠す。
「…よく覚えてたね。」
「んー?忘れるわけないじゃん!」
少しご機嫌になった杏里が数歩前をスキップで進むと、不意にくるっと反転する。
茶色に染めた髪が風になびく。
そして杏里の周りを桜の花びらが舞い上がる。
「結の20歳の誕生日なんだよ!立派に祝うしかないでしょ!」
「うん、ありがとう。」
杏里に追いつくように、歩くペースを早めた結斗の表情が、優しい笑みに変わる。
そっと杏里に手を伸ばすと、彼女の腰にそっと手を添える。
「でも危ないからちゃんと前見て。」
「はーい。」
今度は元気良く返事をした杏里に笑みを見せた後、少し表情が暗くなる。
腰に添えたはずの手は杏里に触れることなく、寸前のところで爪が食い込むほどに握りこぶしが作られている。
「あー、はしゃいだら眠くなった。」
「歩きながら寝ないでね。」
何も気づかない杏里に、いつも通りに返事をする。
何も気が付かない。
何も変わらない。