彼の手
サプライズを期待して音も立てずにドアを開けたのが失敗だった。



勢いよく開けたドアの先に、絡み合う男女のシルエット。




赤いパーティドレスの華奢な女の腰に絡み付いたタキシードの彼の腕



二人の唇から発せられる卑猥なリップ音が部屋中を占拠していた。





あたしの登場に驚いた彼の間抜けな顔を今でも覚えてる



ポカーンと開けたままの口の端にコテコテのグロスがベッタリくっついていて、目は見開かれたままピントがあっていない。



その瞬間、彼との間に巨大な壁が出来上がった気がした。



未だに彼の体に絡み付いている女は、あたしに向けて挑戦的な視線を向けていたけど、そんなこと気にしてられない。






あれ?あの子どこかで見たことあったな。


だけど、あたしの記憶にしっかりインプットされてないってことは、あたしにとってそんなに重要な人物ではないってこと。




じゃあ、遠慮なく。





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