彼の手
あなただけを思って人生を歩んでいこうって決めたあたしの決意を、見事にこんな形で裏切った彼をこの先も許せそうになかった。




だったら、今ここできっぱり別れた方がいいと直感でそう思ったんだ。





目の奥からジワジワこみ上がってくるものを無理矢理押し込める。





「泣くな」それを自分に言い聞かせることで、なんとか自分を保っていた。




それからの記憶は曖昧。



泣き叫ぶ母親が、彼に飛びかかるのを父親と兄貴が押さえたり、あちらのご両親からは土下座されたり、やり直すように説得されたり………




結婚は、本人達だけのイベントじゃなくて、周りの人も巻き込んだイベントだったんだっていうことを、この時一番感じたって友人に言ったら苦笑されたっけ 。



とにかくあたしの人生最大の晴れの舞台は、人生で一番惨めな日となったな。なんて他人事のようにぼんやり思ってた。









あたしを気遣った両親と兄貴が、後始末は一手に引き受けてくれるというので、あたしは一人家に帰った。
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