彼の手
帰る道すがら、引越し作業に手こずって、部屋を引き払うのが遅くなってて良かったと心底安堵した。
無精な性格も案外役立つじゃん。なんて……
だって、これで帰る場所が彼との新居しかなかったら、救われないじゃない。
挙式の後は成田へ直行する予定だったから、重たいスーツケースを引きずりながら家へと向かう。
歩き慣れた道はいつもと変わりなくて、さっきまでの出来事が夢だったんじゃないかとさえ思える。
だけど、この重たいスーツケースが嘘じゃなかったと主張する。
すっかり陽が落ちていた。
マンションの灯りが見えると、途端に自分のテリトリーに入ったように安堵した。
呆れるほど単純な体のあたしは、グーっとお腹が鳴った。
あぁ、そういえば今日、何も食べてなかったな。
どうせなら料理くらい食べてくれば良かった。
ふと冷蔵庫の中身が空っぽなのを思い出し、絶望的な気持ちになった。
帰ったら買い出しに行かなくちゃと、肩を落として歩くあたしの背後から、突然声をかけられた。