彼の手

「お前、なんて顔してんの」



不意に耳に入ってきた聞きなれた声。




だけど、その声がここにあるはずがない。


いよいよ幻聴でも聞こえてきたのかとフルフルと頭を振ってると




「幻聴じゃないぞ」ってクスリと笑うその声。




後ろを振り返ると、パリッとしたスーツに緩められたネクタイがアンバランスな同期入社の男が立っていた。







「………なんで?」



「お前、腹減ってんじゃないかなと思ってさ。差し入れ」




コツンコツンと靴音がして、彼はあたしの1歩前までやって来た。




「ほら」と差し出された袋の中には、あたしの大好きな店のベーグルサンドとコーヒー。



「とりあえず、それ食って出掛けるぞ」




強引にあたしに袋を押し付ける。
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