彼の手




「………意味分かんない」




「意味なんて分かんなくていいの。それより早く食べれば?コーヒー冷めるし」




あたしの手からスーツケースを強引に奪うと、前をスタスタ歩き始める。


「待って」なんて聞いてくれるわけもなく、彼は迷わずあたしの部屋へと向かう。




慌ててその背中を追いかけながら、絶妙なタイミングでの差し入れに感謝する一方で、


今は誰にも会いたくないのにな。という思いもあって、体よく帰ってもらおうと決めた。



なのに──






玄関で追い返そうとした作戦も見事にかわされ、今、あたしと向かい合って座ってる。




この家に入ることが初めてではない彼は、勝手知ったる何とかで、積み上げられた段ボールからクッションを探しだし、それに凭れてくつろいでいる。



そんな彼の視線を受けながら、ベーグルサンドに手を伸ばす。
1日まともに食事を摂っていなかった胃は素直に反応する。

今さら気を使う仲じゃない彼の前で、あたしは遠慮なく大口を開けてかぶりついたーーー





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