True Love
「桐山、ちょっといいか?」

「は、はい!」

思わず姿勢がぴしっと正しくなった。

私は他の人に通せんぼしないように端へ寄る。

「ごめん、呼び止めて。でも昨日の、お礼言えてなかったから…」

お礼とは何だろう。

「ちょっと叱りつけるような言い方してしまったけど、桐山は俺のこと庇ってくれようとしたんだよな。だから、ありがとうって言いたくて」

「え、あ、いやいや!お礼を言われるようなことはしてないよ、私が勝手にしてしまったことだし…。むしろ、私に柴崎くんの何がわかってそんなこと言ってんだよ!って、お前何様だよ!って感じで…」

テンパりすぎてしまい、つい早口でぺちゃくちゃと話してしまう。

柴崎くんはそんな私を見て笑った。

「俺は別にそんなこと思ってねえよ」

同じくらいの身長だから、真正面に来る彼のそんな笑顔にドキリと胸が高鳴る。

「本当に、ありがとう」

「う、うん」

また優しく笑いながら言うから、つい照れてしまう。

何を言っていいのかわからずに黙り込んでしまう。それは柴崎くんも同じなのか、私たちの間に沈黙が流れる。

その沈黙に耐え切れなくなった私はふと思いついたことを話しだす。

「あ、そういえばね!ミルクなんだけど、すっかり元気になったんだよ。にゃーにゃーって可愛く鳴くの!」

こんな風に会話を続けていいものだったのかわからないけど、会話を終わらせたくなくてミルクを話題に出した。

柴崎くんは新しい話題を持ち出したことには一切嫌な顔をせずに食いついてくれた。

「本当か?それはよかった…。ミルクに会いてぇなあ…」

「じゃ、じゃあ家に来る?」

何気なく言ったであろう柴崎くんの言葉に、つい調子に乗ってそんなことを言ってしまった。

言ってしまった後に後悔する。柴崎くんは黙ってしまった。

「あ、いや…別に無理は……」

一歩後ずさって訂正を入れようとするが、柴崎くんから意外な返答が来る。

「ミルクに、会いに行っていいか?」
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