True Love



自転車の後ろで風を受けながら、柴崎くんの肩を持つ。

知り合いに見られないように、人気がなくなるまでは一定の距離を保って歩いていた。そして人気がなくなると、柴崎くんはあの日のように私を自転車の後ろに乗せてくれた。

ま、まさかあの日と同じような展開になるとは…。

ドキドキしながら肩に掴まっていると、私の家にあっという間のような、あっという間じゃないようなくらいの時間感覚で着く。

柴崎くんの自転車を降りる。

「ちょ、ちょっと待っててね。連れてくる…」

顔を見ることができず、慌てて家の中に入ろうとする。しかし、家の鍵が開いていないことに気が付く。

お母さんは家を出ているのだろうか、と思いながら鞄から家の鍵を取り出して開ける。するとそこには案の定誰の靴もなかった。

「柴崎くん、玄関に入って座って待っててくれる?今、家に誰もいないみたいだし」

そう言って家の中に入ってミルクの場所へと向かう。

ミルクはいつものようにリビングにいた。

「ミルク、おいで。あなたを見つけてくれた人が会いに来たよ」

この子を抱えて玄関の方へ行くとミルクを見た柴崎くんの顔が明るくなった。

「にゃー」と小さく鳴くミルクに、久しぶりだなと声をかける柴崎くん。

玄関の上がり框に腰を掛けてミルクを膝に乗せ、毛並みにそって彼女の背中を撫でる柴崎くんにお盆に乗せてお茶を出す。

「ごめん、今お茶しかなかった」

「いや、ありがとう」

お茶を淹れたコップを手に取り口にする。

なんだか不思議な光景だ。柴崎くんがうちにいて、ミルクと戯れながらお茶を飲んでいる。
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