薔薇色のキス
薔薇色のキス

入社して半年が過ぎたまだ暑さの残る金曜の夜、真優(まゆ)は同期との飲み会に来ていた。

メンバーは研修中に仲良くなった総務の
環(たまき)と監査の翔平(しょうへい)くんに
企画の北川くんと海外事業部の里美ちゃん、
あと今日はきてない秘書課の実穂(みほ)。

みんな同じ本社勤務だったのでもっと頻繁に会えるかと思っていたのに、中々全員揃う日がなくて。

そのせいだけではないけれど、誰かが誰かを誘ってくることもあって。

最近はこの二人がよく参加する。

一人はアジア戦略部の藤代さん。
彼は北川くんの大学の先輩で、
もう一人はその藤代さんの同期の手塚さん。

手塚さんは経理課の私の先輩でもある。

すっと鼻筋の通った涼しげなお顔に物腰が柔らかくて、笑顔が素敵。

ノンフレームの眼鏡が知的で、眼鏡王子とか呼んでる子たちもいるらしい。

実際、そうなんだけど。

書類を持って『経理課ですが…』と言うだけで、相手に重箱の隅をつついているような顔をされて、ついこちらも堅い顔をしてしまいがちなのに、いつも優しい笑顔の手塚さんは王子様みたい。

社内の女性人気も高いし、
配属されたその日から色んな噂を耳にした。

一番新しい情報では、秘書課で一番美人の
三木谷さんから告白されて付き合う事になったとか。

でも、色々と教えて頂いてる身の私は手塚さんがちょっぴり苦手。

教えかたも丁寧で計算ミスがあっても嫌な顔をせず指摘してくれるけど、あの笑顔の裏には絶対に何かあると思ってしまう。

だって周りの人は気づいてないけど、
うちの課長に向ける視線は切るように鋭い時があるんだもの。

まあ、確かにうちの課長はお気楽を絵にかいたような人だけど、悪い人じゃないのに。

本当は中身が真っ黒だったりして。

眼鏡王子ならぬ腹黒王子。

実は私の事も内心ではバカ女って言ってそう

キャー、怖いー。

思わず足をバタバタさせてしまってから、
ここがどこか思い出して慌てて止めた。

えへへ。

ちょっと飲みすぎたかな。
と言っても、カクテル三杯だけど。

普段よりペースが早かったからかな。

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