薔薇色のキス
「斎藤さん酔ってる?」
「えっ?!」
ヘラヘラ笑っていると、いつの間にか隣にきた手塚さんに話しかけられて、うっかり心の声が漏れていたのかと口を押さえた。
「大丈夫?気持ち悪い?」
心配そうな顔をされて、ふるふるとかぶりを振った。
よかった、バレてないみたい。
「真優?」
向かいの席から、環も心配そうな顔で私を見る。
「な、何でもない、大丈夫よ」
明日が休みだからって油断したかも。
もうソフトドリンクに変えよう。
でも斜め向かいの里美ちゃんの方が私よりペースが早かった気が……
「私、思うんだけどー、うちの会社さぁ
適材適所の意味、履き違えてない?」
あらら、くだをまき出してるわ。
「そりゃどういう意味だ?」
彼女の隣の北川くんもいい感じに出来上がってるし。
「翔くんとか環とか…あと何と言っても
極めつけの経理部!」
里美ちゃんが手塚さんをキッと見てから、
私に向かって指さした。
「特に真優ちん!」
「どういう意味?」
「意味?って、はっ!
その、いみーって傾げる首っ!!」
首?私の首がどうかしてるの?
「ねぇー知ってる?真優ちんてばメイク落と
してもその顔なんだよ!」
「ちょっと、里美ちゃん何を言い出すのよ、
そんな訳ないじゃない!」
やめて!これでも朝ちゃんと時間をかけて
メイクしてるのよ。
あーこんなことなら、先週彼女を泊めてあげるんじゃなかった。
「チークなしでも薔薇色の頬なんて人が本当
にいるなんて信じられるぅ?色白の肌とい
い、まったく嫌みな女だわー」
「そんな……」
本来なら誉め言葉をたくさん言われたはずなのに、何故か辱しめられた気分になり両手で頬を隠した。
「おい松岡、飲みすぎだ」
翔平くんが里美ちゃんのグラスを奪った。
「ほら、これよ」
「はあ?どれだ?」
翔平くんが自分と彼女のグラスを交互に見た。
「この人たちにダメだって言われると
つい従っちゃうじゃない。
たぶん会社は仕事をスムーズにする為に
容姿で配属先を決めてるんじゃないかと
思うわけー」
「なるほど」
「確かに」
北川くんと藤代さんが感心している。
「んな訳あるか」
「そうよ」
翔平くんと環に同意して私も大きく頷いた。
「そんな事あるんですぅ」
そう言いながら里美ちゃんは企画の加藤さんはカッコいいとか言い出して、話題が別の方向へ変わっていく。