薔薇色のキス

ふと手塚さんを見ると、

ああ、やっぱりね。

ニコニコしてこの状況を楽しんでいらっしゃる。

「さっきの、手塚さんも含まれてましたよ」

「そうだね」

「反論はなかったんですか?」

モテてる事を自覚していらっしゃるなら、
反論なんてないかも知れないけど。

「どうだろ?実際、斎藤さんは可愛いし」

「ンへっ?!」

思わず変な声が出てしまった。

もう一度彼を見ると、涼しげなお顔でグラスを煽っていらっしゃる。

「なに?真優どうかした?」

「ううん、何でもない。
 これお代わり頼もうかなと思って。
 すみませーん」

さっきもう止めようと思ったのに、
動揺して店員さんを呼んでしまった。

「はい!ご注文ですか?」

元気に注文を取りにきた店員さんに、環が自分のと私のお代わりを頼むと、横から手塚さんが烏龍茶を一つと言った。

「もう飲まないんですか?」

何度か一緒に呑んでるけれど、手塚さんはお酒に強い方だと思っていた。

「飲むよ、斎藤さんが頼んだやつをね」

「えっ」

「もう要らないんでしょ?」

「どうしてそれ……」

「薔薇色の頬が真っ赤になってるし」

人指し指ですっと頬を撫でられた。

ゾクッと身体を熱いものが駆け抜ける。

「止めてください……」

「松岡さんの話、もっと聞きたかったな」

なんか職場と雰囲気が違う手塚さんに、
胸がドキドキし出す。

「もう里美ちゃんは泊めてあげません」

「そうか、じゃあ俺が泊めてもらおうかな」

なにこれ?

もしかして私、口説かれてるの?

「手塚さん、酔ってます?」

「いいや」

デスヨネ……って違うの!?

あなたには美人秘書の三木谷さんがいるんでしょう?

「あの……」

「なに?」

にっこり極上の微笑みをされて、ドキドキがバクバクに変わった。

ィヤーー!
やっぱりこの人怖い。

顔は笑ってるのに眼鏡越しの瞳がキラッて光ったもの!

「私…その…酔ったのかな…気分が悪いので
 やっぱり今日はもう帰ろうかな」

ここにいるのは危険だわ。

このまま酔った勢いで口説かれ続けたら、
逃げ切れる自信がない。

いくら手塚さんは素敵だってわかってても、
大勢の中の一人にはなりたくないし、
美人秘書の三木谷さんと修羅場なんて、
格好の休憩室の話題を提供するのは絶対に避けなきゃ。

「ちょっと化粧室へ……」

< 3 / 8 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop