薔薇色のキス

外に出ると夜風が気持ち良くて、酔いを覚ます為にも少し歩きたい気分になる。

「少し歩く?」

またしても気持ちを読み取られて、怖いを通り越してちょっと不思議な気持ちになった。

「どうしてわかるんですか?」

「何が?」

「少し歩きたいなって思ったの」

「わかるからわかるんだ」

「何ですかそれ?」

手塚さんは笑ってそれ以上は何も言わなかった。

ショッピングモールのある駅前通りの裏は
昼間は子供たちが遊べるような広場になっていて、私たちはそっちを通って帰ることにした。

何となく隣を歩くのを躊躇って、彼のすぐ後ろをついて行く。

「斎藤さん俺が苦手でしょう?」

「はい」

手塚さんは前を向いたままだったから、
つい馬鹿正直に答えてしまってハッとした。

「やっぱりね」

一瞬押し黙ってから苦笑う気配に、どうしていいのか居たたまれなくなる。

「すみません……」

うわーーん。
酔ってるせいにしてもいいですか?

「俺が嫌い?」

嫌い?

嫌いっていうのは顔も見たくないとか
口を聞くのも嫌とかそういう事よね。

「嫌いじゃありません、先輩として尊敬
 してます」

そう、手塚さんの仕事はいつも完璧だもの。

「先輩としてね……男としては?」

あれ、まただ。

「……あの、手塚さん」

「ん?」

立ち止まった彼が振り返った。

「さっきのお店でも感じていたんですが…」

私が酔って都合よく考えているのなら
どうぞ突き落としてください。

「うん」

「私、口説かれてますよね?」

外灯の下でじっと私を見つめる彼の視線を
見つめ返す。

どうしよう……
身体が内側から熱くなってく。

「そのつもりだったけど……」

彼は短く溜め息をついて、近くのベンチに座り込んだ。

「失敗だったみたいだね」

そんな手塚さんを見るのは初めてで、
驚きとともに何だか可愛く見えてしまった。

眼鏡王子が私に本気なの?
信じてもいいのかしら?

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