薔薇色のキス
「どうしてですか?」
誰もいない広場だけれど、まだ油断できなくて、少し離れて隣に座る。
「何が?」
「秘書課の三木谷さんとお付き合いしてるん
じゃないんですか?」
「ふうん、今は彼女が相手なんだ」
あれ?いま腹黒王子の顔になった?
「どういう意味ですか?」
「彼女なんていないよ」
ほら、うっすら笑ってる。
「そうですか」
三木谷さんは特定の彼女ではないと?
たくさんいる遊びの彼女の内の一人かしら?
「そうですかって……」
はあーっと盛大な溜め息が頭上から降ってきた。
「……参った」
「え?私、何か変なこと言いました?」
「あークソッ」
「手塚さん?!」
「これでも噂の半分位の経験はあるつもり
だったんだけどな」
そう言うと、手塚さんは二人の間をつめて、
サラッと私の髪を撫でた。
「あっ……」
「さっき加瀬に頭撫でられただろ?
あん時あいつに軽い殺意を覚えたから
つい嫌味を言ってしまった」
「え?」
甘く見つめられて、心臓があり得ない早さで鼓動を打ち出す。
「加瀬を『翔平くん』って呼ぶのも、
気に入らない」
「それは……」
でもただの同期だし。
「課長が白雪姫とか言って鼻の下伸ばして
君を呼ぶのを見る度に、腹立たしくて
課長を殴ってやりたくなる」
「だからあんな……」
怖い瞳で課長を?
「君が本当に白雪姫だったら……」
髪を撫でた手に顎を持ち上げられる。
「畜生!この唇のせいだ……」
堪えきれないという風に唇が重なった。
「んんっ……」
優しく気持ちを確かめるように動く唇が、
だんだんと激しく求めるような動きに変わる
「はぁ…んっ……」
苦しくなって喘ぐ吐息に、より一層深く求められていく。
差し込まれた舌を絡めて首にしがみつくと、
強い力で腰を引き寄せられた。
このまま永遠に続くのかと思ったけれど、
ここが人目がある外なのを思い出したのは彼の方が先だった。