ぎゅってね?
少し歩いたところで玲人のケータイが鳴った。

「ああ?なんだよ?」

ケータイに出た玲人はちょっと不機嫌そうな声を出す。
ケータイから漏れ聞こえる声は女の子のものだ。

聞きたくないし耳をふさぎたくなるのに、不自然な態度も取れなくて、私はその場に立ち尽くす。
胸の奥のほうが、ぎゅってつかまれたみたいに痛くなる。

「はぁ?なんでだよ?うん。わかった、別れよう」

そう言って玲人は一方的に電話をきった。
そして何事もなかったかのように、

「早く行こうぜ、莉子」

と私のほうを向いてそういった。
さっきの電話の声とは違う、いつもの玲人の声。

「いいの?彼女放っておいて」

「ああ。今別れたし」

「……何人目よ?」

「さぁ?覚えてねぇ」

「ロクデナシ」

「違いない」

そういって玲人は笑う。
玲人は恐ろしくモテる。
そして彼によって来るのはみんなかわいい子たちばかりで、私なんて足元にも及ばない。

「行こうぜ、莉子」

そう言って玲人は私に手を差し出す。
私は差し出されたその手をパシッと叩いた。

「そういうこと、軽々しくしないでくれる?私は玲人の彼女コレクションに入る気ないんだけど?」

「ははっ、知ってる。相変わらず莉子は堅いな~。そんなんだから彼氏の一人もできなんじゃね?」

「あんたみたいなロクデナシは願い下げよ」

「知ってる。だから、莉子はいいんだよな~」

玲人はそういってにかっと笑った。

そしてまた彼はさっさと歩きだした。
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