ぎゅってね?
私はちょっとだけそこに立ち尽くして玲人の背中を見つめた。

知らないでしょ?

私がそのロクデナシを何年も好きで居続けてるなんて。

玲人の言葉に深い意味がないことくらいわかっている。

“莉子がいい”なんていうのは友達として“都合がいい”ってことなんだってちゃんとわかっている。

けして玲人になびかない私は彼にとって『特別』な存在だ。

だけどそれはつまり玲人にとって『女の子』ではないということで。

玲人にとって『女の子』じゃない私は、玲人の彼女にはなれなくて。

だから玲人の彼女だった『女の子』たちが、私はすごくうらやましくて。

私はさっき玲人の手を叩いた指先を見つめる。

もし、手をつないでしまったら、私の気持ちは全部この指先からあふれてしまうんじゃないかって思うんだ。

そうしたらきっと私は玲人にとって大多数の女の子と同じになってしまう。

それが、すごく怖い。

「リ~コ~早く~」

私がついてきていないことに気づいた玲人が立ち止ってくるりと振り返る。
玲人と目があって急に思考が現実に引き戻された。

「ごめん、ぼーっとしてた」

うまく表情が作れていたのか私にはわからないけどとりあえずそう言って誤魔化す。

「何?立ったまま寝てたのか?器用な奴」

気に留めた様子もなく玲人は呆れたようにそう笑う。

「私は……不器用なんだよ。玲人が知らないだけで」

私はそういって笑って玲人の隣に並ぶ。
そしてまた二人で歩き出す。
繰り返してきた日常が、今日も壊れなかったことに私は小さく安堵した。

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