センセイの白衣
後輩になりたくて
そして、その頃。
夏休み明け初めて、川上先生に会いに行こうと思った。
職員室の扉の前にいたら、川上先生がちょうど出てきたんだ。
「せんせっ!!」
この間、オープンキャンパスで貰ったばっかりの、S大のパンフレットを、顔の横で揺らして見せた。
夏休みが明けるまで、何度も何度も見返して。
一緒に寝たいくらい、大好きで大事なパンフレットちゃん。
「おっ、横内。」
そのパンフレットをじっと見て、先生は言った。
「行ってきたのか?」
「そうです!S大、行ってきました!!」
「おいで。」
先生は、私の手からパンフレットを取り上げると、いつもの職員室内にある、白いテーブルに向かった。
先生と、斜めの位置に座る。
ああ、この座り方って、心理学的に一番圧迫が少ない、って言われる座り方じゃないかな。
正面でも、横並びでも人は緊張するらしい。
そんなこと、先生は意識していないかもしれないけれど―――
「懐かしいな~。そうそう、ここだよ。」
先生は、私のパンフレットを手に、完全にトリップしている。
目を細めるその姿に、私はきゅんとした。
「ここに、理学部の建物があっただろ?そこからずっとこっちに来ると、図書館があって……」
先生はずっと、自分の記憶の中のS大を思い起こしているみたいだ。
「先生、こんなに綺麗に富士山見えませんでしたよ。このパンフレット、合成ですよね!」
「なに?合成じゃないだろ!富士山、よく見えるぞ!」
「うっそ~?」
「合成じゃない!」
先生のS大を愛する気持ち。
それが、私の気持ちとぴったりと合う。
ああ、幸せだって思った。
こんなふうに、先生と生徒という壁を少し超えたあたりで話すことができるなんて―――
「ここから、チャリで15分くらいで海に着くんだぞ!」
「あ、海、見えました!!」
「お前、海珍しいだろ?」
「そうですよ~。海、大好きです。」
「だけど、津波が来たら危ないから、そういう時は上の方まで逃げるんだ。」
「どこまで逃げたらいいですか?」
「そうだな~。」
先生と、学内マップを広げて、真剣に見つめる。
そんな時間が、どれほど幸せだったか。
私にとって、どれほど大事な時間だったか、分かる?
「ここ、ほら、ここだっ!」
「え?これどこですか?」
「馬術場。」
「こんなところ?寮じゃだめですか?」
「ダメだ!ここまで一気に駆け上がれば助かる!」
「そんなに変わんないじゃないですかー。」
先生と、笑い合う。
ああ、まただ。
私はまた、目を閉じて見る夢を見ている感覚に陥る。
先生と、こんなふうに笑い合った日々が。
ここで学べる日を、楽しみにする日々が積み重なるごとに、私は怖くなった。
もしも、この望みを失ってしまったら。
私は、もう生きていけない、っていうくらい―――
夏休み明け初めて、川上先生に会いに行こうと思った。
職員室の扉の前にいたら、川上先生がちょうど出てきたんだ。
「せんせっ!!」
この間、オープンキャンパスで貰ったばっかりの、S大のパンフレットを、顔の横で揺らして見せた。
夏休みが明けるまで、何度も何度も見返して。
一緒に寝たいくらい、大好きで大事なパンフレットちゃん。
「おっ、横内。」
そのパンフレットをじっと見て、先生は言った。
「行ってきたのか?」
「そうです!S大、行ってきました!!」
「おいで。」
先生は、私の手からパンフレットを取り上げると、いつもの職員室内にある、白いテーブルに向かった。
先生と、斜めの位置に座る。
ああ、この座り方って、心理学的に一番圧迫が少ない、って言われる座り方じゃないかな。
正面でも、横並びでも人は緊張するらしい。
そんなこと、先生は意識していないかもしれないけれど―――
「懐かしいな~。そうそう、ここだよ。」
先生は、私のパンフレットを手に、完全にトリップしている。
目を細めるその姿に、私はきゅんとした。
「ここに、理学部の建物があっただろ?そこからずっとこっちに来ると、図書館があって……」
先生はずっと、自分の記憶の中のS大を思い起こしているみたいだ。
「先生、こんなに綺麗に富士山見えませんでしたよ。このパンフレット、合成ですよね!」
「なに?合成じゃないだろ!富士山、よく見えるぞ!」
「うっそ~?」
「合成じゃない!」
先生のS大を愛する気持ち。
それが、私の気持ちとぴったりと合う。
ああ、幸せだって思った。
こんなふうに、先生と生徒という壁を少し超えたあたりで話すことができるなんて―――
「ここから、チャリで15分くらいで海に着くんだぞ!」
「あ、海、見えました!!」
「お前、海珍しいだろ?」
「そうですよ~。海、大好きです。」
「だけど、津波が来たら危ないから、そういう時は上の方まで逃げるんだ。」
「どこまで逃げたらいいですか?」
「そうだな~。」
先生と、学内マップを広げて、真剣に見つめる。
そんな時間が、どれほど幸せだったか。
私にとって、どれほど大事な時間だったか、分かる?
「ここ、ほら、ここだっ!」
「え?これどこですか?」
「馬術場。」
「こんなところ?寮じゃだめですか?」
「ダメだ!ここまで一気に駆け上がれば助かる!」
「そんなに変わんないじゃないですかー。」
先生と、笑い合う。
ああ、まただ。
私はまた、目を閉じて見る夢を見ている感覚に陥る。
先生と、こんなふうに笑い合った日々が。
ここで学べる日を、楽しみにする日々が積み重なるごとに、私は怖くなった。
もしも、この望みを失ってしまったら。
私は、もう生きていけない、っていうくらい―――