センセイの白衣
「晴子、こっちの方が空いてるよ!」



その時、亜希子に腕を引っ張られて、隣の列に移った。

運がいいのか悪いのか、そこは川上先生の担当する列で。



「え、ちょっと、あっきー、」



私が焦っている間に、すぐに順番が回ってきてしまった。

私は、慌てて先生に健康カードを渡す。

あ、体重とかばれる!



「横内晴子さんね。はい、じゃあこれで左目を隠して。」


「は、ハイ。」



いい子の返事をして、目を覆う器具を受け取る。

なんだかすごく、緊張してしまう。



「これは。」


「右。」


「これ。」


「左。」


「これ。」


「下。」


「はい、逆の目。……これは。」


「……右?」


「これ。」


「……下?」


「分からなかったら分からないでいいぞ。これは。」


「……分かりません。」


「随分ガチャ目なんだな。はい。いいよ。」



先生は、さらっと健康カードに文字を記入して、次の人を呼んだ。

なんだか呆気なくて、でも……。


会話と言えるのか分からないけれど、初めて川上先生と話したことに、私はなんだか感動していた。

いつものように、にこりともしない先生だったけれど。


――随分ガチャ目なんだな、って言われちゃった。


結構、口が悪いんだ、川上先生って。


結局、ずっと先生のことばかり考えている自分が、そこにいた。
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