センセイの白衣
そして、最近のこと。

卒業してから一度も会っていなかった川上先生に、ついに会ってしまった。


会いに行ったわけじゃない。

大学の研修会で、私の出身高校に行っただけ。

だけどね、やっぱり、というか。

先生がそこにはいるわけで。


2年間、ただの一回だって目にしてないのに。

先生をいざ前にしたら、色あせない気持ちが、まだ確かにここにあることに気付いた。


たまに冗談言ったりするのも、一生懸命説明してる姿も、黒いスーツも、笑い方も、何もかも。

全然変わってなくて。


重要な位置で働いているらしく、先生は走り回っていた。



仕事の邪魔しちゃいけないし、私は研修で来てるんだから、って。

私は先生に近づかなかった。

ただ、遠くから見てた。

ずっと見てたら、たまに目が合いそうになって、逸らした。



でも、最後の最後、私たちを引率してた先生が、「はるちゃん、川上先生に挨拶に行くけど、一緒に行く?」って言ってくれて。

迷ったけど、行くって言った。

行かないなんて言えなかった。

先生に近付きたい気持ち、止められなかった。



廊下で。

引率の先生と川上先生が、最初事務的なことを話していて、私はその横にいた。

先生が目の前にいるのが嬉しくて、何も言えなかった。

それだけでよかった。

近くで先生を見られるだけで、私は幸せだと思った。


そしたら―――



「こいつ、ドジだからなんとかしてやってくださいよ。」



川上先生は突然、そんなことを言った。

なに、このブランクを感じさせない口の悪さ……。


そしたら、引率の先生まで。



「はるちゃんはいつも、先生のことを素敵だって言ってるんですよ~。」



とか言い出して。

そしたら川上先生は、



「うそ?ったく、世渡りが上手いなー、お前は。」



なんて言う。

だけど、その言葉さえ嬉しい。

先生が私に、言葉を向けてくれるなら。

どんなに口が悪くたって、それでもいい―――



そして、最後に、最後に、先生急いでたのに。

ふっと真面目な顔になったかと思うと、引率の先生に向かって頭を下げて。



「コイツをよろしくお願いします。育ててやってください。」



って、言ってくれたんだ。



先生みたいになりたい、って言ったの、ちゃんと覚えててくれたんだね。

私、その言葉と仕草で胸が一杯になってしまって。

後で一人になったとき、涙が止まらなかった。


それに、引率の先生も驚いた様子で、



「はるちゃん、川上先生にすごーく大事にされてたんだね。」



って言ってて、また泣きそうになった。


結局、先生に対して何も言うことはできなかったけれど。

私は、十分だったんだ。

先生が、今も変わらず。

私のこと、心配してくれてるって知って―――
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