センセイの白衣
授業の後、のろのろと片付けをしていたら、先生が思ったより親しげに話しかけてくれた。



「お前らどうせ、消去法で生物選択したんだろ?物理ができないから。」


「そんなことないですよ。」


「じゃあ物理できる?」


「できないですけど。」


「ほらね。そんなやつばっかり、生物を選択しやがって。」


「そんなことないです!」



川上先生は、どうやら本当に消去法で生物を選んだと思っているらしい。


私はこの時、小さな決意を固めたんだ。

消去法じゃなくて生物を選んだんだって。

先生に信じてもらえるくらいに、生物という教科を好きになるって。

たくさん勉強しようって。



「あ、それから吉野は休んだんだっけ?追試どうする?」


「えー、先生追試はやだー。」



友達の咲子(さきこ)が口をとがらせる。



「まあいいか。どうせみんな出来が悪いし。」



先生が、じろりと私を見る。



「私、追試受けたいです。」



思わずそんなことを言うと、先生は笑った。



「ばかやろう。横内、めちゃめちゃ悪かったからな。追試受けるか?」



思わず真面目に頷くと、先生はまた笑った。



「次、頑張ればそれでいい。」



あ、優しい―――



川上先生は口が悪いくせに、たまにこんな温かい言葉をくれるから。

だから救われる。

怒っているみたいな言い方をされても、本気で怒っているわけじゃないって、分かるから。



「次、頑張ります。」



そう、次こそ、消去法で生物を選択したわけじゃないって、証明して見せる。


川上先生に認めてほしいって、そう思ったから。
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