センセイの白衣
味覚の授業でも、先生は面白いことをし始めた。


『ギムネマ茶』っていう謎のお茶があるんだ。

それを飲むと、しばらくの間甘みが感じられなくなる。


それを確かめる、簡単な実験をしたんだったね。


先生が、教室の端から紙コップと、冷たいギムネマ茶の入ったポットを回す。



「苦いから、そんなに入れなくていいぞ。ちょっとでも効果があるから。」



そう言ってたくせに―――



一番前の、窓際に座っていた私。

後ろからポットが回ってきて、私で最後だった。

みんな、ほんとに一口分しか注いでなくて、ポットにはまだたくさんお茶が残っていた。


ポットを傾げて、私もちょっとだけ紙コップに注ぐ。


すると、ポットの注ぎ口の方に、急に力が加えられた。



「え、ちょ、せんせっ!」


「お前はもっと飲め!」


「ちょ、何やってるんですかあ~!!」


「いいから飲め!」



結局先生のせいで、私だけ並々とギムネマ茶が注がれたコップ―――

恨めしく先生を見上げると、先生はふっと意地悪っぽく笑った。



「ばかー。」



そう言いながらも、何だか悔しくなって一気飲みしてやった。

それを見ていた先生は、吹き出しそうな顔をしている。



「苦っ……。」


「じゃあ今からチョコレートを配るから、食べてみて。」



配られた普通のチョコレートを口に入れると、全然味がしない。



「まずいー!」



教室のあちこちから声が上がって、先生は満足そうだ。



「舌にある味覚受容体のうち甘味だけを受容する部分がある。

 ギムネマ茶に含まれるギムネマ酸はこの受容部分に結合するんだ。

 だから、ギムネマ茶を飲んだ後に甘いものを食べても、甘味受容体に結合できない。
 
 よって甘味を感じなくなる。」



ふざけてたり、急に真面目になったり。

先生って、自由自在に変化するから、見ていて飽きない。


だけど、さっきのはひどかったな。

目が合うたびに笑いをこらえているような先生に、ちょっと呆れて。

でも、やっぱりちょっと嬉しかった。
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