センセイの白衣
「暑い~。」



5時間目の暑すぎる体育館で、体育の授業があった。

その日はバレー。

もう、あっついったら。



「あ、男子着替えてるじゃん。」


「え、入れないの?」


「うわー。」



教室では、まだ男子が着替えをしている模様。

理数科は40人中、女子が9人しかいない。

だから、着替える時はいつも追い出される。

すごく不本意だ。


制汗剤の柑橘系の香り、せっけんの香り、フローラルな香りが混ざり合う廊下。

こういうのって、今だけなんだろうな、って思う。

卒業して、ここから去ったら。

もう、こんな暑苦しい廊下には戻れない。

それが、少し寂しい。



「明日の生物なんだけど、」


「わっ!びっくりした!」



突然現れた川上先生に、飲みかけのペットボトルを取り落しそうになる。



「それなに?」


「へ?ただの水道水ですよ。」


「なんだ、そうか。」



え、なに、それ。



「で、明日の生物、教室じゃなくて実験室に移動って、みんなに言っておいてくれる?」


「はい!」


「暑いな。」


「暑いですね。」



暑いと言いながら白衣を着ている先生は、見た目にかなり暑苦しいけど……。



「これから日本史の課外なんです。」


「なに?数学の補習?」


「だから補習じゃなくて課外ですっ!それに数学じゃないし。」



私をからかって、いつもの意地悪な顔でふっと笑った先生。

おもむろに白衣を脱ぎ始める。

やっぱり、暑かったらしい。



「じゃあ、連絡よろしく。」



そう言って、先生は去って行った。

去り際に、何故か脱いだ白衣を、片手で肩にさっと掛ける。

何でかっこつけたし……。


だけど、その背中が消えてなくなるまで、私はずっと見送ってしまったんだ。
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