センセイの白衣
生物の授業中に、一問分からない問題があって。

授業の後に、先生のところに行った。



「先生、今度質問に行ってもいいですか?」


「うん。何が分からないの。」


「腎臓のところの、計算。」


「ああ、じゃあまた放課後にでも来い。」


「はい!」



そんなやり取りをして。

私は、そのうち行こうと思っていたんだ。

別に今日じゃなくてもいいよね、って。



その日の放課後は、日本史の課外があった。

だけどその前に、倉木先生に呼ばれていたから。

掃除が終わると、急いで職員室に行った。



「倉木先生!」


「あ、はるちゃん。これさ、直してみたんだけどどうかな。また考えてみて!」


「はい!ありがとうございます。」



そう言って席を離れた私を、川上先生が椅子ごと振り返って、手招きする。

何なに?

ドキドキしながら、先生の方に行く。



「お前、質問に来るとか言って来ないじゃん。」


「へ?」



先生、待っててくれたの?

なんだか感動して、声が出ないよ。



「だって、今日は日本史の課外があって。」


「数学の補習だろ?」


「日本史!!」



いっつもそのネタ。

先生は、また意地悪な顔で笑ってる。



「腎臓の計算問題ができないとか言ってたよな。」


「はい。」


「お前、数学が絡むとできなくなるんだな。」


「そうですね。」


「拒絶反応か。」


「キラーT細胞みたいですね。」



私の言った渾身の生物ネタギャグ。



「は?」



川上先生は、しばらく固まって。



「あ、そういうことか。面白くない。」



そんなことを言って、ばっさりと切り捨てる。

先生の方が、面白くないこと言うくせに。



「明日はダメですか?」


「明日ー?どうしようかな。」



暇なくせに、渋って見せる先生。



「問題集のこのページやって、分からなかったら来い!」


「はーい!」



そう言われて時計を見ると……。



「やば、先生、日本史の課外が始まっちゃいますよ!」


「数学の補習な。ほら、早く行ってこい!!」



走って職員室を出て行く。

最近、川上先生との距離が、前よりずっと近くなったような気がしている。

それが、とても嬉しい。


その日、家に帰ってから。

先生に言われたページを、必死で勉強したのは当たり前のことだけど。
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