センセイの白衣

バースデイ・スピーチ

寂しくなった私が、なけなしの脳ミソで考え付いたこと。

それは、あるクラスの行事にかかわることだった。


うちのクラスでは、自分の誕生日が来ると、前に立ってスピーチをする。

自分の好きなことでいいんだ。

笑いを取っても、真面目にやってもいい。


そこで、何を話そうかずっと悩んでいたんだ。

去年は、長い自己紹介みたいになってしまって、全然よくなかった。

きっと、みんなの記憶にも残ってないと思うけど……。


それで思ったんだ。

今年は、生物のことを話すって。

私が好きになった、生物のことを。


ぱっと思い浮かんだのは、免疫についての話だった。

私は、先生の授業を聴いていて、免疫がとっても好きになって。

この間、先生に思わず言ってしまったキラーT細胞も、免疫系の細胞なんだけど。


そうだ。

免疫について語ればいいんだ。

それで、プリントか何かを作って、先生に見てもらおう!

ちょっぴり不純な動機ではあるけど、そうすればもっと先生に近づける、そんな気がした。




そして、一生懸命作った、A4一枚の手書きプリント。

図も交えて、結構分かりやすく書いたつもりだ。


そして、8時間目の日。

私は前みたいに、今度はわざと最後までプリントを書き終わらずにいた―――




「先生、今度バースデイ・スピーチってのがあるんですよ。」


「ふーん。」


「で、そこで生物の話をしようと思って。ほら、見てください!作ったんですよ!」



プリントを渡すと、先生は驚いたような顔で受け取ってくれた。



「へー、すごいじゃん。」



素直な褒め言葉に、私は赤面する。

先生は、私をいじめていないといけないのに。

急にまっすぐ褒められると、どうしていいか分からなくなるよ。



「何でそんなにT細胞が気に入ったの。」



そう言いながら、目じりにしわが寄るほど、にこにこ笑ってプリントを読んでくれる先生。

ちらっと見るだけかと思ったのに。

最後まで、しっかり目を通してくれた。



「頑張れ。」



そう言われて、私はさらに嬉しくなってしまった。
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