センセイの白衣
「あ、ほら。」



あっきーと一緒に、机の落書きを覗き込む。

私の書いたおにぎりの絵の横に、『お腹すいた~』の文字。



「何て返そうかな。」


「もう、晴子何やってんの。」



何て返事を書こうか、迷っていた時。



「あ、こんなところにも落書きがある。まったく、」



そんなことを言いながら、横山先生が来た。

手には消しゴム。


あーあ。


1ヶ月くらい続いていた、名も知らぬ人とのやりとりが、すべて消されてしまう。



「横内じゃないよな、この落書き。」


「ち、違います、」


「じゃあ上級生だな。まったく、消しても消しても書かれて困ってるんだ。」



先生には、分からないよね。

高校生の、ちょっとした楽しみなんて。

確かに、落書きをしてはいけないって分かってるけど。



「さて、授業を始めるぞ~」



私は、消された机をまた見つめる。



『消されちゃった(涙)』



そう書いて、眺めて、そして消す。



『消されちゃいました(涙)』



おそらく、相手は上級生だから。

一応敬語に直しておく。


隣に、泣き顔のうさぎの顔を描いて―――


そんなことをしていたら、あっという間に授業は終わってしまう。


せっかく、憧れの高校に入ったのに。

何だろう、この無力感。


成績は中の下くらい。

志望の医学部医学科だって、この間の模試は判定が良かった。



だから、何だと言うのだ。


私、本当に医学部に行きたいの?
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