センセイの白衣
次の日から、なんだか先生の顔がまともに見られなくて。

先生も話しかけてくれなくて。


やっぱり、全部終わっちゃったのかな、って落ち込んだ。

今までの私の気持ち。

溢れるほどの、先生が好きという気持ち。

行き場のないその気持ちは、どうしたらいいんだろうと思った。



そんな週の終わり。

土曜日に、数学の課外授業があって。

私は、どよんとした気持ちで通学路を歩いていた。



「おはよう。」



後ろから掛けられた声に驚いて、振り返る。



「おは、ようございます。」



驚きすぎて、ちゃんとあいさつもできない。

そこには、前とちっとも変らない川上先生がいて。



「今日は何で?」


「土曜課外です。」


「数学の補習じゃないのか。」


「違います……あ、でも今日は、数学の90分間のテストです……。」


「あ、それで死にそうな顔してんの?」



違うよ先生。

確かに数学のテストは嫌だけれど。

それ以上に、先生が今まで通りに接してくれないのではないか、って不安で。

ずっと、悩んでたんだよ。



「大丈夫だ。出来る問題からやれ。」


「……はい。」



先生の横顔を恐る恐る見上げるけれど、そこには戸惑いの色なんて一切なかった。

ただ普通の、いつもの、川上先生だった。

それに、私はどれほどほっとしたか。



「バースデイ・スピーチ、最近笑いを取るのばっかりなんです。私も、白衣着て先生の真似しようかなー。」


「ばか。特定の人にしか受けないぞ。」



冗談で言ったのに、真面目な顔でそんなことを言う先生。

私は、思わず吹き出してしまった。


ああ、よかった。

先生、気にしてないんだ。



「あ、横内、あいつには気をつけろ。」


「え?」


「桐島だ。」


「あ、」



一瞬、頭の中が真っ白になる。



「あいつ、前に生物準備室に来て、ひとしきり喋ってたことがある。すごいお喋りだろ。」


「あ、……そうですね。」


「横内、あんなのと一緒にいると、よくないぞ。」



絶対先生の言うことじゃないでしょ、それ。


なんだか面白くなってしまう。

先生、まるでお父さんみたいだ。

先生は、桐島さんの言ったことよりも、私を彼女の関係性を心配してくれたみたいだ。


私が求めていたのは、きっとこんな人なんだ。

お父さんがいない分、お父さんみたいに温かく、私を見守ってくれる人が欲しかった。

それは、川上先生以外にはいない。



「大丈夫です、先生。私もあいつのこと、中学の頃から大っ嫌いですから。」


「ははは、そうか。ならよかった。」



先生と笑い合うとき。

早朝の空は、薄い青で。

私の心は、どこまでも爽やかだった。
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