センセイの白衣
そして迎えた二者懇談。

めちゃめちゃ最悪だった。



「晴子は、志望は同じでいいんですか?」



担任に、下の名前で呼び捨てにされると、ぞわっと身の毛がよだつ。



「はい。」


「医学部医学科、ってことですね。」


「……はい。」



分かってる。

成績が悪いのくらい。

医学部目指すの、難しいことくらい分かってる。

だけど、まだ私は。

医学部以外の夢を見付けられてないんだ。

だからまだ待ってほしい。

それは仮初めの夢なんだから、待ってほしいのに―――



「この間の模試ですけど、数学、そして化学、どうしたんですか。」


「……。」


「どうすれば成績が上がるんですか?」


「えと、日ごろの、予習復習を……しっかりやることです。」


「そうですね。できていますか?」


「……は、い。」



正直言って、復習する時間なんてなかった。

英語も数学も、予習しなきゃ授業についていけなくて。

復習している時間なんてない。

それに、暇なときはいつも、生物の勉強をしているから……。



「生物は、いいですね。」



担任は、不敵な笑みを浮かべている。



「生物、好きそうだもんね。……先生もいいし。」



はっと息を呑むと、担任は口を歪めて笑っている。

許せなかった。

私の気持ちに気付いていながら、そんな言い方するなんて。



「他の教科も、頑張ってくださいよ。」



言っていることは、他の先生と同じかもしれなくても。

担任はいつも、私の嫌いな薄ら笑いを浮かべながら話す。

まるで、届かない夢を追いかける私を、嘲笑っているかのように。



「英語の小テストも、あんまりよくないですね。」



ぎくり、とする。

担任は、他教科の小テストのことまで知っているのだろうか。



「こういうことが、一つひとつ完璧にできない人は、医師に向いていないと思いますよ。」



え―――


どうしてそんなこと言うんだろう。

向いていないかどうかなんて、勉強だけで決まることじゃない。

こんなふうに言われたら、ただでさえぐらぐらしている夢が、今にも崩れ落ちてしまいそう。



「考え直したらどうですか?今ならまだ、遅くないですよ。」



担任に、返す言葉がなかった。

私は、俯いて唇を噛みしめた。



「最後になにかありますか?」



黙って首を振ると、それで二者懇談は終わりだった。

川上先生が隣にいてくれたら、どれほどよかっただろうって。

そんなことを思った。
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