センセイの白衣
次の週の月曜日。
朝早くに、担任のところに向かった。
「先生、お話があります。」
「なんですか?」
「進路を変えます。」
「え?」
担任は、あれほど進路を変えろって言っていたくせに。
いざ変えると言った私を、冷たい目で見下ろした。
だけど私だって、担任に言われたから変えたわけじゃない。
だから、担任には絶対に、屈しないって思ったんだ。
「それで、医学部じゃなければ今度はどうするんですか?」
「先生を目指します。」
「もうそこまで話が進んでるんですか。それに、教師ですか。……晴子には、向いてないと思うな。」
「え?」
向いてない向いてないって。
医師にも向いていないって言ったくせに。
私は、なんだかむかむかしてきた。
「どうしてですか?」
「晴子は声が小さいからなー。それに、優しいからね。生徒を思い切り、叱れますか?」
そんな言い方。
まるで、私のことを何もかも分かっているみたいな。
声が小さい?
そんなことはないよ。
普段の声の大きさと、授業するときでは違って当たり前なのに。
「それに晴子は、いい学校ばかり出て来たでしょう。あなたは、学校の現実を知らないから。荒れた学校に赴任したら、どうするつもりですか?」
どうするもこうするも。
まだ先生になってもいないのに。
私にだって、そのくらいの気概はある。
度胸も。
何よりも、現実を知っていたから、何だっていうんだ。
「そもそも、どうして急に教師になるなんて言い出したんですか?」
「それは……、先生は、多くの生徒の人生に関われる、良い職業だって、思って。医師とは違う、魅力を感じたからです。」
「へえ。生徒の人生に関われる、ですか。……それは、間違っていると思いますよ。」
「え?」
「高校の教師なんて特に、生徒の人生に関わろうなんてしてはいけない。どちらかというと、生徒の後ろに立っているイメージですね。そして、立ち止まってしまった生徒の背中を、そっと押してあげる。そんな職業だと、私は思いますね。あなたのように、自分の価値観を押し付けるのは、どうかと思います。」
むかむかして、何も言えなくなる。
それなら、先生がやっていることは何なの?
生徒の後ろに立っている?
どう考えても今、担任は私の目の前に立ちはだかっている。
どこに行こうとしても、必ず担任が目の前に現れて。
その道を塞ごうとする。
自分の価値観を押し付けるのは、先生の方なのに。
「他に理由はないんですか?」
「……尊敬する先生に出会ったからです。」
担任に対抗するように言った。
すると担任は、またいつもの、気味の悪い笑みを浮かべる。
「川上先生ですね?」
そんなふうに、からかわないでほしい。
川上先生のことまで、ばかにしてるとしか思えない。
「とにかく、そういうことなので。」
私は担任に背を向けると、職員室から去った。
朝早くに、担任のところに向かった。
「先生、お話があります。」
「なんですか?」
「進路を変えます。」
「え?」
担任は、あれほど進路を変えろって言っていたくせに。
いざ変えると言った私を、冷たい目で見下ろした。
だけど私だって、担任に言われたから変えたわけじゃない。
だから、担任には絶対に、屈しないって思ったんだ。
「それで、医学部じゃなければ今度はどうするんですか?」
「先生を目指します。」
「もうそこまで話が進んでるんですか。それに、教師ですか。……晴子には、向いてないと思うな。」
「え?」
向いてない向いてないって。
医師にも向いていないって言ったくせに。
私は、なんだかむかむかしてきた。
「どうしてですか?」
「晴子は声が小さいからなー。それに、優しいからね。生徒を思い切り、叱れますか?」
そんな言い方。
まるで、私のことを何もかも分かっているみたいな。
声が小さい?
そんなことはないよ。
普段の声の大きさと、授業するときでは違って当たり前なのに。
「それに晴子は、いい学校ばかり出て来たでしょう。あなたは、学校の現実を知らないから。荒れた学校に赴任したら、どうするつもりですか?」
どうするもこうするも。
まだ先生になってもいないのに。
私にだって、そのくらいの気概はある。
度胸も。
何よりも、現実を知っていたから、何だっていうんだ。
「そもそも、どうして急に教師になるなんて言い出したんですか?」
「それは……、先生は、多くの生徒の人生に関われる、良い職業だって、思って。医師とは違う、魅力を感じたからです。」
「へえ。生徒の人生に関われる、ですか。……それは、間違っていると思いますよ。」
「え?」
「高校の教師なんて特に、生徒の人生に関わろうなんてしてはいけない。どちらかというと、生徒の後ろに立っているイメージですね。そして、立ち止まってしまった生徒の背中を、そっと押してあげる。そんな職業だと、私は思いますね。あなたのように、自分の価値観を押し付けるのは、どうかと思います。」
むかむかして、何も言えなくなる。
それなら、先生がやっていることは何なの?
生徒の後ろに立っている?
どう考えても今、担任は私の目の前に立ちはだかっている。
どこに行こうとしても、必ず担任が目の前に現れて。
その道を塞ごうとする。
自分の価値観を押し付けるのは、先生の方なのに。
「他に理由はないんですか?」
「……尊敬する先生に出会ったからです。」
担任に対抗するように言った。
すると担任は、またいつもの、気味の悪い笑みを浮かべる。
「川上先生ですね?」
そんなふうに、からかわないでほしい。
川上先生のことまで、ばかにしてるとしか思えない。
「とにかく、そういうことなので。」
私は担任に背を向けると、職員室から去った。